最近では、電話やEメールなどさまざまな通信手段が発達しているため、挨拶状を送る場面は少なくなっていることでしょう。しかし、葬儀など弔事の場面では、今も挨拶状が多く活用されています。
しかも、弔事で送る挨拶状ではより伝統的なマナーが重んじられる傾向にありますので、送る際には失礼とならないよう、注意しなければなりません。
そこで今回は、葬儀にまつわる挨拶状の例文や基本のマナーなどについて解説します。
葬儀の挨拶状とは
葬儀など弔事に関しては、挨拶状を送る場面が少なくありません。葬儀の挨拶状とは、たとえば次のようなものが含まれます。
- 死亡通知と葬儀の案内:故人が亡くなったことを伝えるとともに、葬儀の日時や場所を相手に知らせる挨拶状です。
- 死亡通知と葬儀を済ませた旨のお知らせ:故人が亡くなったことを伝えるとともに、身内のみで葬儀を済ませた旨を相手に知らせる挨拶状です。
- 会葬礼状:葬儀に参列してくれた人に対して渡すお礼状です。
- 葬儀のお礼状:葬儀に参列してくれた人や香典を送ってくれた人などに、後日郵送するお礼状です。
場面に応じて記載すべき内容や送る時期が異なりますので、何のために送る挨拶状であるのかを意識しつつ作成するようにしましょう。
葬儀のお礼状はいつ送る?
葬儀に参列してくれたことに対するお礼状は、いつ送るものでしょうか?ここでは、挨拶状を送るタイミングを解説します。
会葬礼状を当日渡すことが一般的
会葬礼状とは、葬儀に参列してくれたお礼を伝える挨拶状です。会葬礼状は、会葬返礼品とともに通夜や葬儀の当日に手渡します。
また、後日自宅などに弔問へ訪れた方に対して渡すこともありますので、参列者の予定数よりも少し多めに作成しておくと良いでしょう。
後日郵送の場合は忌明けに送る
葬儀へのお礼状を、後日郵送で送る場合もあります。これは、香典などを頂いた相手へ、香典返しの品物とともに送ることが一般的です。
この場合には、四十九日(仏式の場合)の忌明け後に送ります。
なお、最近ではあらかじめ香典返しの品物を用意しておき、葬儀当日に香典返しを渡す「即日返し」のケースも増えています。この場合であっても、高額な香典を受け取った場合には、忌明け後に改めてお礼状とともに香典返しを送ることがマナーです。
葬儀の挨拶状例文
葬儀のお礼状の例文は、次のとおりです。ここでは、葬儀や通夜の当日に渡す会葬礼状と、葬儀後に香典返しとともに送る挨拶状の例文をそれぞれ紹介します。
一般的な会葬礼状の例文
葬儀や通夜に参列してくれた方に対し、会場で手渡す会葬礼状の例文は、次のとおりです。
亡父 挨拶太郎儀 葬儀に際しましては 御多用中にもかかわらず御会葬を賜り 御芳情のほど誠に有難く厚く御礼申し上げます 早速拝趨の上御挨拶申し上げるべきところ 略儀ながら書中にて御礼申し上げます 令和4年10月1日 喪主 挨拶一郎 外 親族一同
会葬礼状では、葬儀へ参列してくれたことに対する感謝の想いを記載しましょう。
葬儀にはさまざまな人が訪れます。そのため、シンプルな内容で作成することが一般的です。
葬儀後に送るお礼状の例文
葬儀後に送るお礼状の例文は、次のとおりです。ここでは、仏式、神式、キリスト教式の場合におけるそれぞれの例文を紹介します。
仏式
仏式の場合における葬儀の挨拶状の例文は、次のとおりです。なお、葬儀の挨拶状は、四十九日(満中陰)法要が済んだ忌明け後に、香典返しとともに送ることが多いでしょう。
謹啓 先般 亡父 太郎 永眠の際には御鄭重なる御弔詞並びに御芳志を賜り 誠に有難く厚く御礼申し上げます お陰をもちまして このたび ( 戒名 ) 四十九日の法要を滞り無く相営みました つきましては 供養の印に心ばかりの品をお送り致しますので 御受納下さいますようお願い申し上げます 本来であれば拝眉の上御挨拶申し上げるべきところ 略儀ながら書中にて御礼申し上げます 謹白 令和4年12月 喪主 挨拶一郎 外 親戚一同
挨拶状には、葬儀へのお礼や香典(「御芳志」や「御厚志」などと表現します)などへのお礼とともに、四十九日法要が無事に済んだ報告などを記載しましょう。香典返しの品物とともに送る場合には、その旨を記載します。
神式
神式の場合に送る葬儀の挨拶状の例文は、次のとおりです。葬儀の挨拶状は、五十日祭が済んだ忌明け後に、香典返しとともに送ることが一般的です。
謹啓 先般 亡父 太郎 帰幽の際は御懇篤なる御弔慰並びに御玉串料を賜り 誠に有難く厚く御礼申し上げます お陰をもちまして〇月〇日に五十日祭を滞り無く相営みました つきましては偲草のしるしまでに心ばかりの品をお届け致しましたので 何卒御受納くださいますようお願い申し上げます 早速拝眉の上御礼申し上げるべきとは存じますが 略儀ながら書中をもって御挨拶申し上げます 謹白 令和4年12月 挨拶一郎
神式の場合には、故人が亡くなることを「帰幽」と表現します。また、仏教でいう香典を「御玉串料」と表現し、香典返しにあたるものが「偲草」です。
キリスト教式
キリスト教式の場合に送る葬儀の挨拶状の例文は、次のとおりです。
キリスト教での葬儀の挨拶状は、記念会や追悼ミサを終えてから送ることが一般的です。なお、キリスト教にはそもそも「忌中」の概念がなく、「忌明け」の概念もありません。
謹啓 先般 亡父 太郎 召天に際しましては 御多用中にもかかわらず御懇篤なる御弔詞並びに御鄭重なる御花料を賜り 誠に有難く厚く御礼申し上げます お陰をもちまして このたび記念会を滞り無く相営みました つきましては偲草のしるしに心ばかりの品をお届け致しましたので 何卒ご受納いただければ幸いです 本来であれば拝眉の上御礼申し上げるべきとは存じますが 失礼ながら書中をもって御挨拶申し上げます 謹白 令和4年11月 挨拶一郎
故人が亡くなったことを、カトリックの場合には「帰天」、プロテスタントでは「召天」と表現します。また、法要に当たる儀式のことを、カトリックでは「追悼ミサ」、プロテスタントでは「記念会」や「記念祭」といいます。
その他葬儀にまつわる挨拶状の例文
ここでは、葬儀のお礼状以外の、葬儀にまつわる挨拶状の例文を紹介します。
訃報と葬儀日程のお知らせ例文
故人が亡くなったことを知らせるとともに、通夜や告別式の日程を知らせる挨拶状の例文は、次のとおりです。
父 太郎 儀 去る〇月〇日に永眠いたしました 故人への生前中のご厚誼に深謝し 謹んで御通知申し上げます なお 葬儀告別式は左記のとおり相営みます 記 一、日時 通夜式 〇月〇日 午後〇時から 葬儀告別式 〇月〇日 午前〇時から 一、式場 〇〇会館 会館住所 〇〇市〇〇町1丁目1番地 令和4年10月 喪主 挨拶一郎
故人が亡くなった日や亡くなったことを簡潔に知らせるとともに、通夜や葬儀に参列する人が迷わないよう会場の情報などを記載しましょう。
家族のみで葬儀を行った後で訃報を知らせる例文
葬儀を家族葬で営む場合には、参列者以外には、葬儀を終えてから亡くなったことを知らせることが多いでしょう。その場合の例文は、次のとおりです。
父 挨拶太郎儀 かねてより入院療養中でございましたが 〇月〇日に永眠致しました 尚 葬儀並びに納骨の儀は 故人の希望により近親者のみにて執り行いました 本来なら早速お知らせ申し上げるべきところ ご通知が遅れました事を深くお詫び申し上げます 故人が生前中賜りましたご厚誼に深謝し 心より御礼申し上げます 令和4年10月 挨拶一郎
故人が亡くなったことを知らせるとともに、葬儀を既に終えたことを記載しましょう。通知が遅れたことを詫びる一文を入れることが一般的です。
葬儀の挨拶状の基本マナー
葬儀にまつわる挨拶状を作成する際には、次のマナーに注意しましょう。
縦書きで記載する
弔事にまつわるものに限らず、挨拶状はそもそも縦書きで作成することが基本とされています。
最近では、横書きの文章のほうが読みやすいと感じる人が増えているためか、横書きで挨拶状を作成することも珍しくありません。しかし、葬儀の挨拶状など弔事の場面では伝統的なマナーが重視される傾向にあり、今も大半が縦書きで作成されています。
葬儀の挨拶状を横書きで作成することにはやはり違和感がありますので、特に大きな理由がない限り、縦書きで作成した方が良いでしょう。
印刷の場合には楷書体か明朝体がベター
葬儀の挨拶状を手書きではなく印刷で作成したからといって、マナー違反ではありません。最近では、葬儀の挨拶状をすべて手書きで作成するケースの方が珍しいかもしれません。
しかし、挨拶状は従来、手書きで作成していたものです。そのため、印刷をするとしても、たとえばゴシック体などを使用すれば、相手に違和感を与えてしまうかもしれません。
ゴシック体などはウェブサイトなどでしばしば使用される視認性の高い文字ですが、手書き文字とは遠い印象の書体であるためです。葬儀の挨拶状を印刷で作成する際には、楷書体や明朝体など、手書き文字に比較的近いフォントで作成することをおすすめします。
頭語や結語は書かない場合がある
頭語とは、文章の始めに記載する「拝啓」や「謹啓」などのフレーズです。一方、頭語とは文章の最後に記す「敬具」や「謹言」などを指します。
一般的な挨拶状においては、頭語や結語を使用することがマナーであるとされています。しかし、故人が亡くなったことを相手へ知らせる死亡通知においては頭語や結語は記載するべきではないとされているため注意が必要です。
一方、忌明け後に送る葬儀のお礼状では、頭語や結語を使用しても問題ありません。ただし、頭語と結語は必ずセットとなりますので、頭語のみ書いて結語を省くようなことは避けましょう。
なお、頭語としては「拝啓」や「謹啓」がよく使用されます。葬儀の挨拶状においては、いずれを使用しても構いません。
しかし、特にかしこまった場面で送る挨拶状や目上の人へ送る挨拶状などでは「謹啓」が望ましいとされるため、こちらを使用するとより丁寧な印象となるでしょう。
また、使用できる結語は、その文章で使用した頭語によって決まります。頭語が「拝啓」であれば「敬具」など、頭語が「謹啓」であれば「謹言」や「謹白」などとなりますので、組み合わせを知っておいてください。
時候の挨拶は記載しない
時候の挨拶とは、「早春の候 皆様ますますご清祥のこととお慶び申し上げます」など、季節を感じる表現で相手の幸せや健康を願う文章です。この時候の挨拶は、葬儀に関する挨拶状では記載しないことが通例とされています。
ただし、忌明け以降に香典返しなどとともに送る葬儀の挨拶状では、季節の挨拶は省いたうえで「御尊家御一同様にはますます御清祥のこととお喜び申し上げます」などのフレーズを入れることはあり、これは問題ありません。
句読点は使用しない
挨拶状では、句読点を使用しないのが基本のマナーであるとされています。
最近では、読みやすさを重視して、特に横書きの挨拶状を中心に句読点を使用することも増えてきました。しかし、弔事の挨拶状において句読点を使用することは、今も一般的ではありません。
そのため、葬儀にまつわる挨拶状においては、句読点の使用は避けた方が良いでしょう。なお、挨拶状で句読点を使用しない理由には諸説ありますが、主な理由は次のとおりです。
- 句読点の歴史が挨拶状の歴史よりも浅く、句読点は挨拶状に馴染まないため。
- 句読点は子どもでも文章を読みやすいように使われ始めたものであり、挨拶状で句読点を使うことは相手を子ども扱いしていることになるため。
- 句読点は文章を区切る役割を持つことから、相手との縁を切ることを連想させ、縁起が悪いため。
忌み言葉を使用しない
忌み言葉とは、その場面において縁起が悪く、使用を避けた方が良いとされている言葉です。弔事の場面では、次の言葉などが忌み言葉に該当します。
- 縁起の悪い言葉:「消える」「落ちる」「苦しむ」「四(「シ」と読み「死」を連想させるため)」「九(「ク」と読み「苦」を連想させるため)」など
- 生死を直接表す言葉:「死ぬ」「死んだ」「急死」「生きていたころ」など
- 不幸が繰り返されることを連想させる言葉:「再び」「追って」「続いて」「引き続き」「重ねて」など
- 同じ表現を繰り返す言葉(不幸の繰り返しを連想させるため):「またまた」「重々」「次々」「いよいよ」「返す返す」など
他にも、仏教においては「迷う」や「浮かばれない」なども忌み言葉であるとされています。なお、「四」や「九」は、日付として使用したり、「四十九日」として使用したりする分には問題ありません。
故人の呼び名に注意する
挨拶状において、故人の名前には「儀」を付けることがあります。たとえば、「亡父 太郎 儀」や、「故 挨拶太郎 儀」などです。
「儀」とは、「~に関する」の意味があり、故人をへりくだって伝える表現です。なお、「儀」は添え字であり、読み方はありません。
宗教によって使う文言が変わることに注意する
葬儀の挨拶状では、宗教によって使うことのできる表現が異なります。たとえば、キリスト教では故人が永眠することを「召天」や「帰天」などと表現し、神道では「帰幽」と表現します。
また、「成仏」や「冥途」、「供養」などは仏教用語であり、神道やキリスト教では使用しません。
誤字脱字に注意する
挨拶状では、誤字脱字に注意しましょう。中でも、相手の氏名などの誤りは特に失礼に当たりますので、あらかじめよく確認することをおすすめします。
また、仮に作成した挨拶状に誤字や脱字があった場合に、修正テープや二重線などで修正して送ることは望ましくありません。誤字や脱字をしてしまったら、手間であっても挨拶状をつくり直すようにしましょう。
まとめ
葬儀の挨拶状を作成する際には、注意すべきさまざまなマナーが存在します。マナー違反にならないよう、例文を参考としつつ慎重に作成しましょう。
しかし、身内が亡くなったあとはやるべきことも多く、葬儀の挨拶状にさほど時間をかけられない場合も少なくないかと思います。そのような場合には、テンプレートの活用がおすすめです。
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